和算を直接に理解するということ
今までの記事で、牟礼神社にある算額の問題の数学的内容と今の数学での解法を解説してみました(第一題、第二題、第三題)。その結果、和算だとか洋算(今我々が使っている数学)だとかには関係ない、純粋に数学の問題としての内容や性質などはある程度理解できたと思います。
しかし、最終的には和算の問題は和算で解いてみるべきではないか… 例えば古典文学の世界で、源氏物語に現代語訳があって読めるのはありがたいし、非常に有益だと思いますが、一方で元の文を直接に理解できたならばさらに素晴らしいし、元の文でしかわからないようなことも色々あると思います。
実際、学校の国語の学習項目として古文の読解を習うわけですし、その重要性がわかろうものです。
ということは数学に関しても同じようなことがあるでしょう。和算をできるだけ直接に理解する、そうすることでしかわからないことがあるとは思います。単純な興味としても、いつか和算で和算の問題を解く、というのはやってみたいものです。それにより先人達が残してくれた叡智に一層親しみが湧くこともあるでしょう。
まずは和算の図形で出てきた甲・乙・丙あたりからか
数学で、図形などに簡易に名前を付けるとき、今ならA、B、C.. としますよね。今の我々はアルファベットでAが最初、Bが2番目、Cが三番目、… というのに馴染んでいるのでこれだと説明が容易なわけです。
一方和算の問題で甲、乙、丙… と書かれているのを見ると「あれ、丙は何番目だっけ?」みたいなのがすぐに出てきません(少なくとも私は)。この段階から違和感を感じてしまうわけです。なのでここら辺から手をつけてみるというのも悪くないかもしれません。というわけで
十干(じっかん)とは
甲乙丙… というこの一連は十干(じっかん)というもので、名前通り全部で10個あります。
- 甲(こう)
- 乙(おつ)
- 丙(へい)
- 丁(てい)
- 戊(ぼ)
- 己(き)
- 庚(こう)
- 辛(しん)
- 壬(じん)
- 癸(き)
基本的には何か10個かそれ以下のものに名前を振るのに使われると思います。何か「ランク付け」の意味合いで使う場合もあります。かつての日本では学校の成績だとか、徴兵検査で甲乙丙… とラベル付けされたようです。今でも「甲乙つけ難い」という言い方はしますよね。あと焼酎には甲類と乙類がありますね。さらには契約書等でも甲乙は使われてますかね。
そういえば漫画・アニメの「鬼滅の刃」では鬼殺隊の階級を表すのにこれの「訓読みバージョン」が出てきました。
- 甲(きのえ)
- 乙(きのと)
- 丙(ひのえ)
- 丁(ひのと)
- 戊(つちのえ)
- 己(つちのと)
- 庚(かのえ)
- 辛(かのと)
- 壬(みずのえ)
- 癸(みずのと)
ただの番号で言うより古風な感じがしますね。
さらに「五行」
十干の訓読みの方、なんだか規則的な感じがします。「〜え」「〜と」というのを5回繰り返す感じです。実はこれが元の由来を表していて、元々は漢字で「きのえ=木の兄」「きのと=木の弟」「ひのえ=火の兄」「ひのと=火の弟」「つちのえ=土の兄」「つちのと=土の弟」「かのえ=金の兄」「かのと=金の弟」「みずのえ=水の兄」「みずのと=水の弟」の意味なんですね。
それぞれの名前の最初の部分
- 木
- 火
- 土
- 金
- 水
が五行(ごぎょう)というものです。
一方後ろ側の部分「兄」「弟」は陰陽、
- 兄 → 陽
- 弟 → 陰
を表します。五行×陰陽で10のものを分類している感じですか。これらは中国の自然哲学思想に由来するそうです(陰陽五行説、名前だけは聞いたことが)。
五行は5個程度のものの名前に使われます。実際、牟礼神社の算額の第一題でも使われていました(が、当初はなんのこっちゃ、と思いました)。
ちなみに五行は曜日1に似ていますが、数が足りないのと、並びが違いますよね。月火水木金土日の方はこれとは別に七曜(しちよう)と言うようですね。ただ、一つ一つの名前は五行と関係しているようです。あと惑星の名前の方も五行に関係あるようです。奥深いですが、ここではとりあえずこのぐらいで。
もう一つの番号付け、十二支(じゅうにし)
ざっくり、これらの12個バージョンにあたるものが十二支(じゅうにし)です。
- 子(ね)
- 丑(うし)
- 寅(とら)
- 卯(う)
- 辰(たつ)
- 巳(み)
- 午(うま)
- 未(ひつじ)
- 申(さる)
- 酉(とり)
- 戌(いぬ)
- 亥(い)
十二支の方はまだ一応残っていますよね。「今年の干支はヘビ」といったように。(ちなみにヘビはどれだかわかりますか? 巳(み)ですね。)
こちらは、今までの例と同様、12個あるものの名付けに使われます。といえばまずは「時刻」ですよね。ちょっと注意点があり、昔の時刻は24時間を12個に分割して、そこに十二支を割り振りました。なので一つの時刻が2時間分になっています。
有名な「丑三つ時」という言葉(時刻は)、昔の時刻だとまず「子の刻」が今の23時〜1時ぐらいにあたり、次の「丑の刻」がその次のおよそ1時〜3時で、それを4つに分割したうちの三番目、ということで約2時頃、ということになります。
十干と十二支の話をしたら、次に来る話題は
昔の暦などで使われている六十干支(ろくじっかんし)、あるいは単に干支(かんし、えと)の話なのですが、それをここで続けると記事が膨れすぎると思うので、また別の機会にでも書きたいと思います。
十干と十二支が和算で出てくる理由?
どうなんでしょう。一つには、和算が漢文で書かれることからもわかるように、かつて中国から古い算術が伝わった時の名残でこのような名前付が残っている可能性はありますよね。
あとは戦前ぐらいまでは十干と十二支は普段から使われていたようなので、戦前ぐらいまでの人々が展開した数学にそれらが使われていても不思議ではないですね。
脚注
- そういえば中国では曜日は月火水… ではなく、月曜が星期一、火曜が星期二、… ただし日曜は星期日 (or 星期天)となるんですよね。五行だとか七曜だとか言ってるのはむしろ日本だけ? ↩︎


コメント