霊仙寺湖とは
いきなりですが、霊仙寺湖（れいせんじこ）とは、長野県飯綱町にある人口湖の名前です。ふと、なぜこの湖に「霊仙寺」という名前が付いているのか、疑問に思いました。「霊仙寺」の意味はなんでしょうか。あと「寺」と付く名前からして近くに「霊仙寺」という寺でもあるんでしょうか。では実際にどうなのか、そこら辺を少しだけ掘り下げてみたいと思います。
まずは周辺の地名等から
この湖の付近に霊仙寺（れいせんじ）という地名があるかというと… 普通にありますね、地図で見ると霊仙寺湖からすぐそこに見える山の名前が「霊仙寺山」（れいせんじやま）、その山麓に「霊仙寺」という地名が見えます。おそらくこれらが湖の名前の元になっているのでしょう1。
「霊仙寺」を探す
上の地図にあった霊仙寺という地名、「寺」が付く以上、実際にそういう寺があるんでしょうか? それを調べるため今度はGoogleマップの力を借りると… ありました、「霊仙寺跡」がGoogleマップ上の場所として登録されています。
Googleマップに登録された場所にはその説明や写真が付いている場合がありますが… ここにもありますね。ネット上のコントリビューターの方々に感謝です。それによると現地には寺の説明があり、なるほど、ここには鎌倉時代ぐらいに寺があったと。思ったより歴史があるようですね。知りませんでした。
ところが
はい一件落着、と思ったのですが、あれ、ちょっと待ってください。これは?
りょうぜんじあと?
なんか読み方が違いますね。地名の方は「れいせんじ」ですが。
霊仙寺（りょうぜんじ）とは一体何なのか
「霊仙寺」と書いて「りょうぜんじ」とは何なのか。特にあてもないのでネットで「霊仙寺」あるいは「りょうぜんじ」を何となく調べてみると… あら、ここだけじゃなくて日本各地に同名の寺が。検索結果を列挙してみますと
「霊仙寺」の漢字が使われているもの
- 霊仙寺（大分県豊後高田市）
- 霊仙寺（岐阜県恵那市）
- 霊仙寺跡（佐賀県吉野ヶ里町）
- 霊仙寺遺跡（滋賀県栗東市）
- 霊仙寺（秋田市大仙市）
古いものでは8世紀頃の建立だそうです。空海だとか最澄だとかの時代ですね。真言宗とか天台宗とか…
「りょうぜんじ」という読みの寺
軽く調べたところ「りょうぜんじ」は「霊山寺」の漢字になっている寺が多いようです。ウィキペディアによると「霊山寺」というお寺は18山もあるようです。私がググった時に上位でヒットしたお寺は以下
- 霊山寺（奈良県奈良市）
- 霊山寺（徳島県鳴門市）
- 霊山寺（静岡県沼津市）
- 霊山寺（岩手県伊達市）
- 霊山寺（大分県大分市）
等でした。
あと、上の看板の画像にある説明で「（このお寺の）本居（ほんきょ）は長沼（長野市）に移され」とありますが、現在はさらにそれを引き継いだお寺が善光寺のほど近くにあり、そのお寺の名前は漢字で「霊山寺」と書かれ、読みは「りょうざんじ」2だそうです。
さらにこれらの中間のような名前の「霊仙山（りょうぜんざん）」という山が滋賀県にあリます。こちらも「霊仙寺」という寺に関係するようです。
「りょうぜんじ」という名前はどこから来た?
というわけで思ったより沢山あった「霊仙寺」ないし「りょうぜんじ」ですが、上記の中では奈良県奈良市にある霊山寺3に縁起が残っているようで、それは
天平8年8月インドバラモン僧、菩提僊那が来日され、登美山の地相が霊鷲山（りょうじゅせん）にそっくりということから、寺の名称を霊山寺（りょうせんじ）と奏上され、落慶となりました。
（霊山寺のサイトより引用）とのことです。勝手にざっくり理解させてもらうと
- 仏教関連で聖地と言えば「霊鷲山」だよね
- 日本でもそこに似た仏教関連の場所があれば「〇〇のメッカ」的な言い方で「霊鷲山」→ ちょっと略して「霊山」と呼んでもいいよね
- で、その山の麓にある寺だから「霊山寺」だよね
と言う感じですかね。ちなみに「メッカ」も本来はイスラム教の聖地のことですが、もっと一般的に「本格的な場所」のことをメッカと言ってしまいますよね。
なお、興味深いことに徳島県鳴門市の霊山寺と大分県大分市の霊山寺にも類似の縁起が残っているようです。ただし菩提僊那ではなく弘法大師になっていました。おや? 果たして、どれかがオリジナルでそれ以外は縁起のエピソードをいただいてしまったのか、どれもオリジナルなのかは、よくわかりません。
ちなみに「りょうぜんじ」という読み方はいわゆる「呉音」ですよね。「れいせんじ」に似ていますが、ちょっと違う。日本語の漢字の音読みの一般的なものは「漢音」と言われますが、それとは別に仏教の伝来頃に伝わった音読みがあり、それを「呉音」と言います。その由来から、仏教系用語(?)では呉音で読まれるものが多いようです。例えば「華厳」は「かげん」でなく「けごん」ですよね。ちなみに老若男女を「ろうにゃくなんにょ」と読むのも呉音ですね。（ちなみに「境内（けいだい）」も一見呉音かと思いきやこちらは漢音だそうで、トリッキーです）
霊山寺と霊仙寺の名前の関係
飯綱山の麓にあった霊仙寺が廃寺になった後に別の場所で跡を継いだお寺は霊山寺という名前で、そのようなこともあり、霊山寺と霊仙寺はほぼ同じと考えていいのかなと思っています。
ただ、霊仙という高名な僧の方もいたそうで、そちらの方の影響のある場合もあるようです。
飯綱の霊仙寺に関する一つの特徴
飯綱の霊仙寺に関して、一つ興味深い点があります。それは全国にある霊山寺（りょうぜんじ）は、上で説明したように
- まず山が「霊山」という名前になった
- その山の麓にある寺が、山の名前＋「寺」＝「霊山」＋「寺」＝「霊山寺」という名前になった
というわけですが、この流れは飯綱町の霊仙寺（こちらも、元々は「りょうぜんじ」）には当てはまりません。飯綱町の霊仙寺はその最寄りの山の名前が「霊仙寺山」ですから、上のように 山の名前＋「寺」 を実行すると
山の名前＋「寺」＝「霊仙寺山」＋「寺」＝「霊仙寺山寺」
になってしまうからです。
このことからするに、飯綱町の霊仙寺に関しては、もしかすると他のお寺のように「霊山」という山の存在を元に寺の名前が決まったのではなく、寺の名前として山とは関係なしに「霊仙寺」と命名されたと見るのが自然かな、と思います。
その後、この寺があるということで山の方の名前が霊仙寺山になった、すなわち他のお寺とは逆方向の由来（山の名前→寺の名前ではなく、寺の名前→山の名前）になったのではないでしょうか。
霊山寺 / 霊仙寺は複数あれど、霊仙寺山は唯一
というわけで、名前の成立の流れが違うということもあり、霊仙寺山という名前の山は日本でここにしかないようです。
もう一つのパターン：霊仙山（りょうぜんざん）
滋賀県にある山で、こちらは上で紹介した高僧の霊仙に由来するようです。4
さらにもう一つ、霊泉寺（れいせんじ）
霊泉寺（れいせんじ）というお寺も複数あるようですが、分布が主に北陸地方に限られ、これはまた別の流れなのかな、と思います。
そして最後に霊仙寺湖の名前の由来（の妄想）を
おっと、そういえば最初の疑問は「霊仙寺湖」の名の由来でした。
本来は「霊山」の寺ということで「霊山寺」となり、その後にこれが霊仙寺などになったでしょうが、いつの頃からか山の存在を忘れられ「霊山寺/霊仙寺」という寺の名前だけが一人歩きしたのではないでしょうか。
そのような状況で、飯綱山にあった霊仙寺はまず寺に「霊仙寺」の名が付けられ、ある程度の知名度を得た後、ではその背後にある山を「霊仙寺山」と呼ぼうか、というようなことになったのではないでしょうか。
ここまで来れば、この後この付近の地名に「霊仙寺〇〇」を採用することは普通の流れだと思います。その結果、湖の名前は「霊仙寺湖」となったのではないでしょうか。
最後に念を押しておきますが、ここに書いたことは個人の妄想です
個人的に各種文献やネットの情報から考えただけのことを書いております、ご注意ください。
脚注：
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