明治初期の町村地図と和算家のかかわりの一例:長野県の旧牟礼村と旧豊野村の地図

明治初期の豊野村の地図

牟礼駅の名前の由来を調べた記事では、明治初期にあった豊野村(長野県(信濃国)水内郡豊野村、現在の飯綱町の牟礼駅周辺と長野市豊野町の一部)の地図を紹介しました。

明治初期の豊野村(長野県(信濃国)水内郡)

この地域の和算家のお名前を発見

ところで、豊野村の地図に書かれた地図編集者の署名をご覧ください(上の地図で四角で囲んだ部分です)。

この、「堀越作右衛門」という方のお名前、私には覚えがあります。実はすでにこのブログで紹介したことがありまして、それは牟礼神社の算額に、算額の問題の出題者としてこの方のお名前があるのでした。

ただしこの方のお名前について、算額では「屈作右衛門」となっていたんですよね。一見苗字が異なる(「堀越」 vs 「屈」、「作右衛門」は共通)のですが、算額の文献などを見てもこの二つの名前を同一人物と扱っています。よくわかりませんが、「堀越」を省略して「堀」のつくりの「屈」だけを書く場合があったということでしょうか?

地図にこの方のお名前があるのは、地図を作成するときに和算家の力を借りたのでしょう。伊能忠敬の日本地図でわかるように、ああいう地図を作る数学や技術はあったわけです。測量のデータを地図に落とし込む時に和算家の数学が活かされたのでしょう。

ところでこの方の出題は算額の一番目の問題で、その解法を以前このブログで紹介しましたので、ご興味がありましたら別途ご覧ください。

明治期の牟礼村の地図の場合

同じ記事で明治初期の牟礼村の地図(オリジナルはこのページ)も紹介しました。それには編集者名などは記載がないのですが、矢筒山の部分を見てみると

矢筒山からこの地域の山々(斑尾山・黒姫山・霊仙寺山・飯縄山・三登山・髻山)に向けて直線が引いてあります。これは周囲の山々への方位を測量したもののようです。
これにも、和算家かそれに近い技能を持った人が測量や作図に関与していたとみるべきでしょう。

明治期の地図がどのぐらい正確かを調べてみる

矢筒山から引かれた方角線
現代の地図だと、飯綱町の「大字牟礼」の範囲(=明治初期の牟礼村の範囲)と、周囲の山々の位置関係は以下のような感じになります。

オリジナルの明治初期の地図では明らかに周囲の山々が近すぎますが、これは山の方角だけを問題にしていて距離は問題にしていないのだと思います。したがって無問題です。

上で紹介した矢筒山に描かれた方角線と、この地図を重ねてみますと

ほぼ線がつながります。方角はかなりしっかりしているようです。(注:見やすさを重視して矢筒山の図は背景の地図より少し拡大してあります。方角だけを見る分にはそれで大丈夫です)

明治初期の牟礼村の範囲(=現在の飯綱町大字牟礼の範囲)
明治初期では以下のように描かれています。今の飯綱町の牟礼地区・坂上地区・四ツ屋地区あたりの範囲です。
なお、既に上で書きましたが、飯綱山と黒姫山(地図左側の緑の丸)が実際よりはるかに近くに描いてあるのは意図的なものでしょう。

明治初期の牟礼村の範囲を示した地図

一方、現在の地図で飯綱町大字牟礼に相当する範囲を表示すると以下のようになります。基本的には明治初期に「村」であった地名が「大字」になっているので、両者は一致するはずです:

現在の飯綱町大字牟礼の範囲
(明治期の地図の向きに合わせて地図を回転済み)

明治の地図とかなり形が似ていますよね。逆にいうと、明治の地図はある種の測量に基づいて造られたレベルの地図であると思われます。
注:地図の下部の某カントリークラブに接する部分が白く不自然な抜け方をしていますが、これは何らかの理由でデータが入っていないようです。本来はこの部分も上の明治の地図と似た境界になっているのではないかと推測します。

ではこの両者を重ねてみると:

少し分かりにくいかもしれませんが、「おおむね」重ねっていると思います。合わない部分も、当時と現在で区画等が変わったせいに見える部分もあり、それだと地図の精度には関係ありません。

一点、栄町地区での鳥居川の流れが、古い地図の方は今と比べてだいぶ南側に曲がっていますが、これは実際にそういうものだったのか、それとも単に地図上で正しく描けていないのかは少し気になるところです。

鳥居川(現在の飯綱町の牟礼地区から栄町地区の部分)の流れの差

まとめ

明治初期の地図ですが、編集者の名前に牟礼神社の算額の出題者の名前を発見し、当時の和算家が果たしていた役割の一旦を窺い知ることができました。
明治期の地図は一見したところ手書きの図という感じで、正確さはどうなんだろうと思いましたが、上で述べた通り、山の方角や村の境界などは現在の地図と比較して完璧に一致とまでもいかずともかなり一致しており、当時の地図作成に関する学術の水準を窺い知ることができます。

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