飯綱町の牟礼神社にある算額:第三題の別解、反転法を使った別の方法。シュタイナーの円鎖? 「極形術」との関係?

算額

以前の記事で「反転法」を使って第三題を解説しました

牟礼神社にある算額の第三題の現代的な解法を以前の記事で紹介しました。そこでは「反転法」を使いましたが、それはどういう目的だったかというと主に

  • 円がたくさん出てくる問題で、反転法により一部の円を直線に写像して問題を楽にする(反転の中心を通る円は直線に移されるので、そのように反転の中心を選ぶ)

ためでした。
今回、「反転法」の適用の仕方を変えてより「直接的に」解が求まる方法がわかりましたので、それを説明したいと思います。

どうやらこの問題はもっと一般的な問題の一例のようです

個人的に、牟礼神社の算額の問題を気にし始めてから、少しずつですが、他の和算の問題や、それに関連する数学の分野なども眺めています(眺めているだけであまり理解はしていませんが)。
そうして知ったのですが、円の中にそれより小さな円を詰める、あるいはその3次元バージョンで球の中に球を詰めるような問題は、一般的な数学として深く研究されているようです。
特に、円の中に円を特定条件で詰める問題を扱ったものに「シュタイナーの円鎖 (Steiner chain)」というものがあることを知りました。ウィキペディアの記事などを参考にしてみてください。

ざっくりいうと、「円鎖」というのは、大きな円とそれに含まれる小さな円を定めた時、それら二つの間に、互いに接し合う円で鎖状に(「数珠状」と言ってもいいかも)並ぶ円を見出せている状態のことです。機械に詳しい方なら「ベアリング」などを想像してもいいですね。ただし本物のベアリングとは違い、外側の輪と中の軸が同軸(中心位置が同一)ではない(よってその間に詰まる円も違うサイズの集まりになる)ものも扱います。

ひるがえって牟礼神社の算額の第三題のために私が用意した図を見てもらうと、一番大きい円である「外円」(元は外「球」だが、二次元の円の問題に落とし込んだので「円」と呼びます。以下同様)の中に「戊円」があり、その周りを互いに接する円で埋められています。これは「シュタイナーの円鎖」の一例になっています。

シュタイナーの円鎖の用語との対応:上の図での外側の円は「外円」そして真ん中の円、この場合は戊は「内円」と呼ばれます。そしてこの場合は内円を取り巻く小円が6個あるので(甲、乙×2、丙×2、丁)「\(n = 6\) のシュタイナーの円鎖」と呼びます。

時代的には

当時の日本の和算家達が西洋のシュタイナーの研究などを知る由もなかったでしょうから、日本では独自に数学の発展が進んでいたわけですね。感慨深いです。

反転の補題:同心円化

今回の計算で使う反転の性質を一つ紹介しておきます:

共有点を持たない、かつ同心円でもない二つの円があるとき、それらを同心円になるようにできる反転が存在する。

ここで特にこれを証明したりしませんが、次にこれをシュタイナーの円鎖に適用した場合を説明します。

内円と外円を同心円に移すような反転をシュタイナーの円鎖に適用する

シュタイナーの円鎖に出てくる内円と外円、一般には同心円ではありませんが、それらを同心円になるように移す反転が存在します。
この反転では以下のような性質があります:

  • 反転の中心がどの円とも重ならないので、すべての円は別の円に移されます。
  • 反転の連続性により、接する円同士は接する円同士に移されます。
    • 反転前に内円と外円の間に鎖状に接していた円は、反転後は反転後の内円と外円の間に、お互いが接している鎖状の円として移されます。
  • さらに、反転により内円と外円が同心円に移る場合、反転後の内円と外円の間は同心円により等間隔ですから、鎖状に接している円はすべて半径が等しくなることがわかります。

内円と外円が同心円で、鎖状の円の数が6個の場合のシュタイナーの円鎖

内円と外円が同心ということで、二つの円の間隔はどこでも等しいので、その場合のシュタイナーの円鎖は以下のようになります。元の算額の問題では鎖状の円の数が6個なので6個の場合を図を示すと以下のようになります:

はい、鎖状の円が6個の場合は特別で、内円と鎖状の円の全てが同じ半径になります。
外円の大きさとの関係は:外円の中にそれより小さくて同じ大きさの円が外円の半径上に3個並んでいるので、外円とそれ以外の半径の比は3:1ですね。

以上のことにより、一般的なシュタイナーの円鎖を外円と内円が同心円になるように反転で変換できることがわかりました。さらに、円鎖の数が6の場合は上の図のように外円以外の円が全て同じ大きさで六角形に並ぶ図形になることがわかりました。

今までのことをまとめると、算額の問題で扱ってきた図形から、内円が外円と同心円になっている図形へ、反転で移すことができます:

さらに反転には逆が存在する(無限遠を含まない場合)ので、逆に、同心円の円鎖から元の円鎖へ反転で移すことができます:

ということは、
この両者を結ぶ反転が分かれば、元々の問題である右側の図形は、まず左側の簡単な図形を求めてから反転を作用させて右の図形に戻すことで求めることができるのではないでしょうか。
これはすごいというか面白い性質ではないですか?
というわけで、以下そのような反転を求め、簡単な図形に反転を作用させることで解を求めてみたいと思います。

この問題での反転の設定

同心円の円鎖
まず、上の図の左側の同心円の円鎖ですが、大きさを自由に決めても反転のパラメーターを調節することで元の図形に移せるので、一般性を失いません。そこで

  • 外円の半径:3
  • 内円を含むその他の円の半径:1

とします。

反転のパラーメーター
反転の半径を \(k\) 1とし、反転の中心が原点にあるとします。同心円の円鎖の中心は \(x\) 軸上にあり、反転中心(原点)から距離 \(d\) の位置にあるとします。

図のように、各円と \(x\) 軸が交わる点を \(\mathrm{A}\)、\(\mathrm{B}\)、\(\mathrm{C}\)、\(\mathrm{D}\)、\(\mathrm{A’}\)、\(\mathrm{B’}\)、\(\mathrm{C’}\)、\(\mathrm{D’}\) のように名付けます。
すると反転のパラメーター、および左側の図形では内部の円の半径をすべて1に設定したことから、各点の座標は
$$\mathrm{A}: (d-3, 0), \ \mathrm{B}: (d-1, 0), \ \mathrm{C}: (d+1, 0), \ \mathrm{D}: (d+3, 0)
$$となります。
ここで出てきた $d$ を含む4つの $x$ 座標ですが、もしどれかが $0$ になることがあればそれは反転の中心がその円周上にあるということで、そのような円は反転により直線に移ってしまいます。今回はどの円も円に移ることが前提なので、そのような $d$ の値にはならないことが前提になります。すなわち $$
d-3\ne0, \ d-1\ne0, \ d+1\ne0, \ d+3\ne0
$$です。

反転の一般的な性質として、ある点 \(\mathrm{P}\) が反転により \(\mathrm{P’}\)に移されるとき、原点からの距離に関して
$$ \mathrm{OP’} = k^2 / \mathrm{OP}
$$ が成り立つので、反転後の点の \(x\) 座標はそれぞれ
$$ \mathrm{A’}: {k^2 \over d-3}, \ \mathrm{B’}: {k^2 \over d-1}, \ \mathrm{C’}: {k^2 \over d+1}, \ \mathrm{D’}: {k^2 \over d+3}
$$ と計算できます。
すると、反転後の円の図より、反転後の円の半径はこれら座標の差の半分の値として求めることができます。我々は元の問題での外円と甲円に興味があり、それぞれの半径は図から

  • 外円の半径 = $\mathrm{A’D’} / 2$
  • 甲円の半径 = $\mathrm{C’D’} / 2$

で計算できることがわかります。

念のため、元の問題の再確認

以下の右側の図で、外側の円の半径 $r_1$ と 甲の半径 $r_2$ が与えられたときに乙の半径を求める、というのが元々の問題です。
右側の図ではそれぞれの円が微妙な大きさで、半径の値は自明ではありませんが、一方左側の図では内部の円が全部同じ大きさで、半径の値は自明です(外円の1/3ですよね)。というわけで、左側の楽な方で計算してからそれを反転して本来求めたかった値を求めることはできるのか、というのがここまでの流れです。

上で求めた $x$ 座標の値を使って計算すると
$$
\begin{aligned}
{1 \over 2}\mathrm{A’D’} & = {1 \over 2}\left( {k^2 \over d-3}-{k^2 \over d+3} \right) \\
&= {k^2 \over 2} {d+3-(d-3) \over (d-3)(d+3)} = {3k^2 \over (d-3)(d+3)}
\end{aligned}
$$ $$
\begin{aligned}
{1 \over 2}\mathrm{C’D’} & = {1 \over 2}\left( {k^2 \over d+1}-{k^2 \over d+3} \right) \\
&= {k^2 \over 2} {d+3-(d+1) \over (d+1)(d+3)} = {k^2 \over (d+1)(d+3)}
\end{aligned}
$$ 元の問題では外円の半径を \(r_1\)、甲円の半径を \(r_2\)としていたので、これらの値は $$
r_1 = {3k^2 \over (d-3)(d+3)}
$$ および $$
r_2 = {k^2 \over (d+1)(d+3)}
$$ と表されます。

内円と外円が同心円の図形での計算

ここまで反転で移された側の図形の計算をしたので、次に反転で移される前の、外円と内円が同心円になっている図形での計算をします。

今回使った反転の設定より、同心円の内円の中心は \((d, 0)\) にあります。内円を囲む6つの円のうち、反転によって乙の円に移る円は内円の右斜め上にある円です。

内円とこの円が接していること、およびこの円の中心は内円の中心から60度の方向にあること、内円とこの円はどちらも半径が1であることから、この円の中心は \((d, 0) + (1, \sqrt{3}) = (d + 1, \sqrt{3})\) にあります。

反転によりこの円は乙の円に移ります。反転の中心を通りこの円に接する直線(接線)が円と接する点を \(\mathrm{P}\) とします。乙の半径を \(a\) とします(前回の記事と同じ記号を使う)。すると反転の性質より反転前後の円の半径の比に関して $$
{a \over 1} = {k^2 \over \mathrm{OP}^2}
$$ 一方、図上の直角三角形 $\mathrm{OPQ}$ に三平方の定理をあてはめると $\mathrm{OP}^2 + \mathrm{PQ}^2 = \mathrm{OQ}^2$。円の半径より $\mathrm{PQ} = 1$、および $\mathrm{Q}$ の座標によりこれは $$
\mathrm{OP}^2 + 1^2 = (d+1)^2 + (\sqrt{3})^2 = d^2 + 2d + 4, \
\mathrm{OP}^2 = d^2 + 2d + 3
$$ これら二つの式より、乙の半径 $a$ は$$
a = {k^2 \over \mathrm{OP}^2} = {k^2 \over d^2 + 2d + 3}
$$と表されます。

ここまでの計算で、反転のパラメーター $d$、$k$ と与えられた円の半径の値の関係がわかりました。すなわち外円の半径 $r_1$ に関して $$r_1 = {3k^2 \over (d-3)(d+3)}
$$ および甲円の半径 $r_2$ に関して $$
r_2 = {k^2 \over (d+1)(d+3)}
$$ です。これらの式を $d$ と $k$ の連立方程式として解けばいいわけですが、少し計算の工夫をします。まず $r_1$ と $r_2$ の比を取ることで $k$ を消去し$$
{r_1 \over r_2} = \left. {3k^2 \over (d-3)(d+3)} \middle / {k^2 \over (d+1)(d+3)} \right.
= {3(d+1) \over d-3}
$$ 次に $$
\begin{aligned}
& r_1(d-3) = 3r_2(d+1), \ r_1d-3r_1 = 3r_2d + 3r_2, \
d(r_1-3r_2) = 3r_1 + 3r_2,
\end{aligned}
$$ よって $r_1-3r_2 \ne 0$ならば $$
d = {3(r_1 + r_2) \over r_1-3r_2}
$$

$r_{1}-3r_{2} = 0$ という条件はなんでしょうか。一つには、上で紹介した外円と内円が同心円でかつ円鎖の個数が6の場合に成り立ちます。今回扱っている元々の算額の問題では成り立っていないはずです。ここは別途掘り下げてみたいと思います。

次に、求めた $d$ を $r_2 = k^2 / (d+1)(d+3) $ の式に代入します。
まず、代入しやすくするために $d+1$ と $d+3$ を計算しておきます。

  • $d+1 = \displaystyle{3r_{1}+3r_{2} \over r_{1}-3r_{2}} + 1
    = \displaystyle{4r_{1} \over r_{1}-3r_{2}}$
  • $d+3 = \displaystyle{3r_{1}+3r_{2} \over r_{1}-3r_{2}} + 3
    = \displaystyle{6(r_{1}-r_{2}) \over r_{1}-3r_{2}}$

これらを $k^2 = r_2(d+1)(d+3)$ に代入します。$$
k^2 = r_2 \cdot { 4r_{1} \over r_{1}-3r_{2}} \cdot {6(r_{1}-r_{2}) \over r_{1}-3r_{2}}
= {24r_{1}r_{2}(r_{1}-r_{2}) \over (r_{1}-3r_{2})^2}$$

乙の半径の計算

乙の半径は \(a = k^2 / (d^2+2d+3)\)で与えられていて、分子の \(k^2\) を計算したので、次に分母を計算します。
まず、分母の $d^2+2d+3$ を $(d+1)$ を使って変形します。$$
d^2+2d+3 = (d+1)^2 + 2
$$ ここに $d+1 = \displaystyle{4r_1 \over r_1 \,-\, 3r_2}$ を代入します。$$
\begin{aligned}
(d+1)^2 + 2 &= \left( {4r_{1} \over r_{1}-3r_{2}} \right)^2 + 2
={16r_{1}^2 + 2(r_{1}-3r_{2})^2 \over (r_{1}-3r_{2})^2}
\\
&= {16r_{1}^2 + 2(r_{1}^2-6r_{1}r_{2}+9r_{2}^2) \over (r_{1}-3r_{2})^2}
\\
& = {18r_{1}^2-12r_{1}r_{2}+18r_{2}^2 \over (r_{1}-3r_{2})^2}
= {6(3r_{1}^2-2r_{1}r_{2}+3r_{2}^2) \over (r_{1}-3r_{2})^2}
\end{aligned}$$

次に、これに上で計算した $k^2$ を掛け合わせます(上の式の逆数を掛ける形になります)。

$$
{k^2 \over d^2+2d+3}
= {24r_{1}r_{2}(r_{1}-r_{2}) \over (r_{1}-3r_{2})^2}
\cdot {(r_{1}-3r_{2})^2 \over 6(3r_{1}^2-2r_{1}r_{2}+3r_{2}^2)}
$$ 分子と分母にちょうど $(r_{1}-3r_{2})^2$ が出てくるので約分できて、最終的に以下の形になります。$$
a = {k^2 \over d^2+2d+3} = {4r_{1}r_{2}(r_{1}-r_{2}) \over 3r_{1}^{2}-2r_{1}r_{2}+3r_{2}^{2}}$$

これは、以前の記事にある(15)式と全く一緒です! 計算方法は違いますが正しい答えが出たということで、よかったです。
同じ答えですから、そのときやったような、算額で示された答えの形 $$
a = {4r_1r_2 \over {\displaystyle 4r_1r_2 \over \displaystyle r_{1}-r_{2}} + 3(r_{1}-r_{2})} = {4r_{1}r_{2}(r_{1}- r_{2}) \over 4r_{1}r_{2}+3(r_{1}-r_{2})^{2}}
$$等に変形しても構いません。

補足:「極形術」というもの

和算には「極形術」と呼ばれる解法があり、実際にこの牟礼神社の算額の第三題の元の出題者は極形術を使って正解を導いてあったそうです。
ですが極形術の全般的な評価としては、「場合によっては答えが正しくない場合がある」そうです。
実はまだ「極形術」について断片的にしかわかっていないのですが、どうやら以下のような解法の流れを使うようです:

  1. 扱っている問題のクラスで、最も単純なものを考える:例えば四角形の問題を扱っているなら正方形、三角形なら正三角形、等。この最も単純なものを「極形」と呼ぶ。
  2. 極形の場合の問題の解を見出だす。一般的な解より簡単に求められる(ことが多い)。
  3. 極形と実際の問題を結ぶような「変換」を見出す。
  4. 極形で得た解にその変換を適用して、本来の解を得る。

推測ですが、3. が問題で、おそらく扱う問題の数学的性質を正しく扱う変換が見出せないと、このようにして得た解は正しくなく、そしてそのような変換を見出すことは一般に難しいということでしょうか。

とりあえずのまとめ

今回の解法は、前回の解説同様反転がすごく大きな役割を占めていますが、反転にもいろいろな使い方があることがわかり、興味深かったです。

以前解説した解法では、反転の中心を、問題の図形に現れる二つの円の接点(円周)上に取ることでそれらの円を直線に変換して扱えるのは良かったものの、それら以外にも複数の円が残り、未知変数が少なくない連立方程式を解く必要がありました。
一方、今回の方法だと未知だったのは反転そのものだけ、すなわち反転の半径と中心の位置の2変数だけで、問題の解法がより簡単に済んだと思います。いかがでしょうか。

内円と外円が同心円になっている円鎖から始めるということで、解法の方針としてはもしかして極形術が目指したものに近かったでしょうか?


脚注

  1. 以前の記事では「反転の半径を $\sqrt{k}$」としていたのですが、どうも「反転の半径を $k$」とする記法の方が一般的のようなので、今回は後者を採用しました。紛らわしくてすみません。 ↩︎

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